「これってできますか?」。何かをつくりたいという相談の、いちばん最初によく届く一文がこれだ。私の答えはほとんどの場合「たぶん、できます」になる。そしてその答えは、ほとんど役に立たない。今日書くのは、できますかの前に私が何を聞くようになったか、そして聞いていなかったせいで画面を2回つくった話だ。
Inspo Order には、厨房に流れたあとの注文の数量を直す仕組みがある。客が 3個と押してしまって、本当は 2個だった、だから数を下げないといけない、という直しだ。最初につくったとき、私はその画面を客の電話の中に置いた。
そう決めた理由は、並べてみれば筋が通っている。間違えたのは客だ。客の手にはもう画面がある。店の人に新しい操作を覚えてもらう必要もない。1つずつ見れば、どれも間違っていない。
公開してから 3週間の記録を見た。数量の直しは 310件あった。そのうち客の電話から来たのは 4件だった。残りの 306件は、カウンターで口に出されていた。「さっきのを 2個にしてください」と言われて、店の人が紙に書き、閉めるときに私たちに電話をしてくる。私がつくった画面は、ほとんど誰も触っていなかった。
つまり押すのは店の人だ。しかも店主の方だとは限らない。3店のうち1店では、そのときカウンターに立っている人が押す。その人は自分のログインを持っていなかった。ログインは店主の方のために1つだけ用意してあったからだ。
つくり直しは、ボタンの置き場所を変えるだけでは済まなかった。カウンターの画面の前には列がある。数秒で、片手で、次の注文を受ける画面から離れずに終わらないと、使われない。最初の画面は 4回押して確認の問いに答える形だったが、カウンター用は 2回で終わる形にした。1日半で済むと思っていたつくり直しに 6日かかった。厨房に流れたあとの数量を誰が直してよいかという権限を分ける必要があり、直した分が日次の締めにどう出るかも決め直したからだ。
私が聞いていなかった質問は、「これは何をする機能ですか」ではない。「誰がこの画面の前に立っていて、そのとき手に何を持っているか」だ。誰も嘘をついていない。私が一度も聞かなかった。
だから今は、最初の相談で聞くことを3つ決めている。どれも技術の話ではない。いまのやり方を見せてください。画面の前に立つのは誰ですか、その人は自分のログインを持ちますか。うまくいかないとき、いまは何が起きて、誰が気づきますか。
3つのうちいちばん効くのは最初のものだ。説明してもらうと、やり方はきれいに整って出てくる。実際のやり方には、紙と、チャットの履歴と、誰かの記憶が混ざっている。説明から始めると、説明されたとおりのものができる。そしてそれは使われない。
同じ間違いを Inspo Marketplace でもやった。商品を登録する画面を、全部を知っている一人が、一度に座って埋めるものとしてつくった。項目は 11個あって、どれも空のままでは保存できない。写真を撮る人と、値段を決める人が同じ人ではないことを、私は考えていなかった。3週間で登録は 148件始まって、途中で止まったものが 62件あった。途中のまま保存できるようにしたら、次の 3週間で止まったものは 9件になった。
ただ、誰が押すのかを聞けば本当のことが分かる、というほど簡単でもない。最初に話す相手は、押す人ではないことが多い。だから私は、その人の手が動いているところを見せてもらうか、せめてカウンターに1時間立たせてもらえないかと頼む。断られることもある。そのときは、自分はまだ見ていない、と紙の上に書いておく。
できますか、という問いには、たいてい「できます」としか答えようがない。難しいのはそこではなく、何を最初に出すか、何はつくらないかを決めるところだ。そして見積りの紙にそれを書き落とすのが、私がいまもよくやる間違いだ。金額と期間は内容しだいなので、ここには書かない。
最初の相談で出したいのは、設計図ではない。人が口に出して言える一文だ。誰が、いつ、何を押して、うまくいかなかったら何をするか。この一文が書けないうちは、その先の紙を書いてもたぶん無駄になる。310件のうちの 4件が、それを教えてくれた。