事務所はバレンズエラにある。窓の外はすぐ幹線道路で、朝は渋滞の音で目が覚める。ここが私の仕事場で、これから書くことはだいたいこの部屋で起きたことだ。
KAZENA Books をフィリピンで扱うと決めたとき、最初にやったのは売り方を考えることではなかった。帳簿のほうだった。売る前に、この国の様式で出せるのかを確かめないといけなかった。
この製品はもともとインドネシアの事情に合わせて育っている。VAT は 11%、源泉徴収は PPh 23、給与の控除は BPJS。フィリピンは VAT が 12% で、拡大源泉徴収には ATC コードが付き、給与は SSS・PhilHealth・Pag-IBIG・BIR の4つを同時に満たす必要がある。
数字を置き換えれば済むと思っていた。3日で終わると見積もっていた。実際には 3週間かかった。
つまずいたのは税率ではなく様式だった。当局が求めるのは「正しい合計」ではなく「決まった並びの合計」だ。合計が合っていても、並びが違えば受け取ってもらえない。ここを軽く見ていた。
給与のほうがもっと厄介だった。4つの制度はそれぞれ締め日も計算の丸め方も違う。ひとつに合わせると別のひとつがずれる。表計算でやっていた頃の苦労を、そのままソフトの中で再現することになった。
最初に出した報告書は、数字は合っているのに提出できる形になっていなかった。会計士の方に見てもらい、1か所ずつ直した。20回は出し直したと思う。
失敗をひとつ書いておく。ATC コードの扱いを取り違えていて、2週間分のテストデータを作り直した。原因は私の思い込みで、仕様書には最初から正しく書いてあった。読んでいなかったわけではなく、読んだつもりになっていた。
KAZENA 側のエンジニアとは毎日やり取りしている。時差は 1時間しかないので、朝に投げた質問は昼には返ってくることが多い。返ってこない日は、向こうも同じところで詰まっている日だ。
この関係で一番ありがたいのは、こちらから「フィリピンではこうなっている」と言えることだ。買って売るだけの立場だったら、様式の話は誰も拾わない。中に手を入れられるから、直る。
いまは Books の報告書が当局の様式で出る。まだ全部ではない。増やしている最中で、次は何を優先するかを毎週決めている。
最後に断っておく。私は税理士ではない。ここに書いたのは自社の作業の記録であって、申告の判断は必ず専門家に確認してほしい。